それ前提が違うから、、、− 私が習った経済学のおすすめ本

数日前、電車の目の前の方の新聞に、京大のケーシー佐伯のコラムがあって、しっかり読んでしまいました。要旨は、

  • 新自由主義と金融資本主義がおかしいのは、端から判っていた
  • いま、この10年が明らかに失敗したと考えて、きちっと何がおかしいか議論しておかないと後々に禍根を残す

というところ。年々ろくでもない連中がのさばってます。公共財の安価払い下げだの、公共事業のいっちょ噛みだの、やっていることは、明治の政商と一緒。欧州でいうなら、囲い込み運動と変わりゃしません*1。これ聞くと、「後からそう言うのは簡単で、、、」と思うかも知れませんが、実際何となくそう感じるだけでなく、理屈から言っておかしいと思う経済学屋も実は多かった・・・というのが、実情でしょう。たかが学士の私がこんなことを話すのは僭越ですが、まともな意見がおよそ表で流通しない十年だったような(探せば、トービンのqとかいろいろ話は再燃していたけれども・・・)。

でもって、この当たりの問題を考えるに、やっぱり、

  • 数学的な土台を知っておく
  • 経済学では、根本で実証的には怪しい前提を適当に使って、かなり恣意的にポジション・トークすると知っておく*2

に如くはないかなと。ちょっと専門的領域になるのですが、そこを抜きにして、言葉の説明だけ聞いてもさっぱりなのではないかと思います。果たして、そこを避けていいのか、、、時々、ここで言うことですが、必要以上に内容を薄めたものは別物になるので、私は大変まずいと思います。とりあえず微分の初歩が判ればいいので、文系であっても、中学か高校出たら、判らないとは言えますまい。実際、内容は高校生なら十二分に理解できる程度のことです。地道に理屈を追う必要はあります。

ポジショントークして他人の財産かすめる側に廻りたい方も、こういうことがわかってないと「ミイラ取りがミイラ取り」に、「深淵をのぞいている者は、深淵をのぞいている」になりますから、やっといた方がいいですよ!!*3

キャスター付きの椅子をぶらぶら回転させるのが好きなマー君が、良い本を出していますが、絶版中。中古で安いのでぜひどうぞ。

現代アメリカ経済学―その栄光と苦悩 の商品写真  現代アメリカ経済学―その栄光と苦悩
著者: 根井雅弘
出版社: 岩波書店

現代経済学講義 の商品写真  現代経済学講義
著者: 根井 雅弘
出版社: 筑摩書房

「戦後に主流になってしまったテキスト経済学の通説には、根底でこんな問題があるよ〜」というところを、優しく、簡潔に示しています。端から見ていると、「土台にそんな問題があるってことは、砂上の楼閣でしょ、、、」と思うのですが、そこはさすがに根井先生、誰も傷つけないようオブラートに包みながらお話しています。*4 後者には、後学の為にこれもどうぞという読書案内がついていて、これが結構良いものです。

上の二冊を読んでから、その師匠筋の二冊!

君たちの生きる社会 (ちくま文庫) の商品写真  君たちの生きる社会 (ちくま文庫)
著者: 伊東光晴
出版社: 筑摩書房

経済の常識と非常識 の商品写真  経済の常識と非常識
著者: 都留 重人
出版社: 岩波書店

はい!これでおっけー。簡単でしょ?たったの四冊で、ミラクルなほどに見方が変わります。答えが教えてくれるというより、自分なりに答えを見つける道具・能力を与えてくれる、という親切な四冊です。

根井先生の理論の話も、微分積分あたりの数学をやっていれば問題なく読めるので、中学生の方もぜひチャレンジくださいませ。

この四冊による基礎があるなしでは、いろいろ読み進めるにも印象・理解度がずいぶん違うと思われます。

では、どんな方に進んで行くか・・・

日本経済を問う―誤った理論は誤った政策を導く の商品写真  日本経済を問う―誤った理論は誤った政策を導く
著者: 伊東 光晴
出版社: 岩波書店

の時事解説経済エッセイなど、時事問題を考える基礎になかなか良いかなと。時事解説だから昔のことはもう古くて要らなーい、なんてことはありません。

本エントリー冒頭に書いた様に、同じ形式の過ちというかカラクリが手を変え品を変え繰り返されるだけとも言えますので、古い本でもこういうものを読んでおくと、いまを理解するに役立つのは当たり前。むしろ知っておかない方が怖い・・・*5

表立っての理屈と腹の中の狙いがいかに異なるか、多分、新聞を読むパースペクティヴも変わるものかと。最近やっとネット上でちらほらでてきた裏話がいろいろ読めて、(気づく人には)面白いです。

後は、ちょっと昔の話なら、伊東さんの他に、宮崎義一氏の本も検索の上、ご興味あれば手にしてくださいませ。

ここでは宮崎義一さんは省いて、別の方で国際競争の基本を考える著作・・・

法と経済 (シリーズ現代の経済) の商品写真  法と経済 (シリーズ現代の経済)
著者:
石黒 一憲
出版社: 岩波書店

をどうぞ。10年前の本です。当時の通産相が頑張ってくれると思っていたのですが、、、なんだかおかしなことになりました。こういうパトリオティックな伝統にある官僚がいまや端に恥にと追いやられて、グローバルどうのと称する外患誘致派がぶいぶい言わしてるのでしょうか?どうなんですかね?*6

一言で言えば、公の意見に惑わされるな、ですね。今の変化は、誰と対峙しているのかさっぱり判りませんが、根本的な考え方は応用できるはず。

*****

古い本だと、

 いまそんなの読んでどうなるの?

と思ってしまいがち。でもスタンダードは変わらないし、文系分野も形式は同じで、表面的な飾りが違うだけです。*7

例えば、経済学をちょっと離れて戦略論になりますと・・・といっても勝負競争のための戦略論だから経済活動にも応用できるものに決まってますが・・・ギリシャ、ローマもそれなりに学ぶのが欧米だとか聞いたことがあります。*8

歴史 上 (ちくま学芸文庫)  の商品写真  歴史 上 (ちくま学芸文庫)
著者: トゥキュディデス
出版社: 筑摩書房

歴史 下 (ちくま学芸文庫) の商品写真  歴史 下 (ちくま学芸文庫)
著者: トゥキュディデス(ツキディデス)
出版社: 筑摩書房

*9

かれこれいろいろご紹介致しました。

なぜ自分がこんなことあんなことをあれこれ考えないといけないか・・・。

啓蒙とは何か 他四篇 (岩波文庫 青625-2) の商品写真  啓蒙とは何か 他四篇 (岩波文庫 青625-2)
著者: イマヌエル・カント
出版社: 岩波書店

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫) の商品写真  永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫)
著者: イマヌエル・カント
出版社: 光文社

公共心どうのという議論が嫌いな方であっても、自分が深淵をのぞくミイラ取りになって足をすくわれない為には、知っておいたほうがいっかなーというエントリーでした。
では〜。





後日注:

別のエントリーに書いた内容をもとに、ケインズ一般理論をそれなりに理解するための道筋をこちらにも上げておきましょう。

まずは、ケインズ一般理論を買って来て、ひとまず読もう、というのも手です。

雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉 (岩波文庫) の商品写真  雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉 (岩波文庫)
著者: J.M.ケインズ 訳注: 間宮陽介
出版社: 岩波書店

しかしこの書は、いきなり読んでもわけわからんのが当たり前!であります。

まずは、それほど難しくない基本と伝記を書いた

ケインズ―“新しい経済学”の誕生 (岩波新書) の商品写真  ケインズ―“新しい経済学”の誕生 (岩波新書)
著者: 伊東 光晴
出版社: 岩波書店

次に、探偵小説の様な表紙で、もう少し細かいとこも簡単に書いた

ケインズ (講談社学術文庫) の商品写真  ケインズ (講談社学術文庫)
著者: 伊東 光晴
出版社: 講談社

を読み。ここまで来たら、いよいよ上述の間宮陽介訳 ケインズ一般理論にチャレンジです!傍らには、ケインズの議論の前提まで詳細にわかりやすく解説した

コンメンタールケインズ一般理論 (1964年) の商品写真  コンメンタールケインズ一般理論 (1964年)
著者: 宮崎義一・伊東光晴
出版社: 日本評論社

を置きましょう。いまどきマーシャルの古典派経済学をみっちりやるわけないので、このコンメンタールがないと、ケインズの話の前提がなにがなんやら理解できないはず。

もう一冊同じ伊東のケインズ本があって、簡単に書いているけど、ちょっと真面目に勉強してないとなんの話か判りづらいかも・・・。読みやすいから誰でも読めてしまうのですが、多分、上の勉強をした後だといろいろ感じることが違うと思います。

現代に生きるケインズ―モラル・サイエンスとしての経済理論 (岩波新書) の商品写真  現代に生きるケインズ―モラル・サイエンスとしての経済理論 (岩波新書)
著者: 伊東 光晴
出版社: 岩波書店

上述のもろもろを読まれたら、この本も難しくはないでしょう。

ざっくり1980年代以前と以降で、ケインズ研究・一般理論の読み方がちょっと変わるそうですが、この『現代に生きるケインズ―モラル・サイエンスとしての経済理論 (岩波新書)』はそういった研究成果を抑えて書いた由。

これらを読んでおけば、ケインズ理解も相当なものでしょう。日頃経済時事を耳にして、各種解説を鵜呑みで信じることも減り、「ちょっとした疑問」を感じ易くなると思います。

専門書っぽくって難しそう、などと思わないでください!

 取りあえず簡単な微分まで判れば読める、たった七冊の本

と思って頂くとよろしいかと存じます。繰り返しましょう、

 取りあえず簡単な微分まで判れば読める、たった七冊の本

です。一回で判らないのは当る前。行ったり来たり、一年経ってまた考えてはまた戻ってと進めれば、わたしなんかよりもすぐに詳しくなると思います。

*1:あれも共有地の私物化ですから

*2:ご都合主義の前提の使用例を幾つか知ると、いかにいい加減か判るもの・・・

*3:2016年某日注:ニーチェ箴言2ch ver.。
原文は
Wer mit Ungeheuern kämpft, mag zusehn, dass er nicht dabei zum Ungeheuer wird. Und wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein. (Jenseits von Gut und Böse)
白水社版全集の翻訳、「怪物と戦う者は、その際に自分が怪物にならないように、注意するがいい。また、君が長いこと深淵を覗き込むならば、深淵もまた君をのぞきこむ。」。
いざどこに書いてあるかと探すと面倒なので出典元を書いておきますと、ニーチェ『善悪と彼岸』第四章 箴言省察 146。白水社版全集ならば、第II期の第2巻に所収。探しました・・・
この文章が、人を魅惑するのは判りやすそうで、ちょっとずれていて、曖昧だからと思います。それで、釣られて解釈にトライしたくなる。
二つの文章それぞれを見れば分かりやすい。つながりはなくはないけれど、そこを説明すると面倒なことになるけれど、それをせずに二つの文章を無造作につなげてしまう。
ニーチェの書き物は、全般的にそういう癖があると思っておくとあまり引っ掛かり過ぎることなく過ごせるでしょうか。そこに気付くのも練習みたいなものながら・・・
でも、これが無意識下の活動にある典型的なつまづきの石を並べただけと思えるのは、ニーチェを読むのではなく、別種の修業がいると思います。

ニーチェ全集 第2期 第2巻 善悪の彼 の商品写真  ニーチェ全集 第2期 第2巻 善悪の彼
著者: フリードリヒ・ニーチェ
出版社: 白水社

*4:「いやぁ、それを信じている方もいらっしゃいますから」と伺ったような気が、、、

*5:後日注:このシリーズは過去には

「経済政策」はこれでよいか―現代経済と金融危機 の商品写真  「経済政策」はこれでよいか―現代経済と金融危機
著者: 伊東 光晴
出版社: 岩波書店

日本経済の変容―倫理の喪失を超えて の商品写真  日本経済の変容―倫理の喪失を超えて
著者: 伊東 光晴
出版社: 岩波書店

があり、同様におすすめです。この後も、時折新刊が出されますから、ネットや書店で伊東光晴の新刊を年に一度くらいお調べくださいませ。

*6:昨今、役人批判が多いですが、忸怩たる思いをしている中の方は絶対いらっしゃるかと。なんでここで石黒さんが書いているような方向が消えたのか、そういう話は聞いたことがないですが、興味深い事情がありそうです。

*7:後日注:こちらの記事で紹介している http://d.hatena.ne.jp/sergejO/20090710/1247227251 東大教師が新入生にすすめる名著一覧ですが、理系の方が年をとっても推薦書が変わりにくいそうです。スタンダードがより変わりにくい。文系も選べばそれなりにそういうものがあって、ここで紹介しているのはその一端であります。

*8:ほんとかどうか知りませんが・・・私の数少ない外国の知人はアニオタとか、芸術家とか・・・

*9:政治抗争のダイナミズムを知りたいなら、ギリシアならいまでも「とりあえずトゥキュディデスを読め」となりますが、ローマならどれになるのでしょうか?寡聞にしてよく知らず。

同時代史 (ちくま学芸文庫)  の商品写真  同時代史 (ちくま学芸文庫)
著者: タキトゥス
出版社: 筑摩書房