即興に見えて、即興ではなかったマネのとある絵

十五の夏、極短期だがアメリカで過ごす。ニューヨークか、ワシントンか、マネのある絵を気に入った。素早く筆を運んだ簡単なもので、いかにもマネらしく一点の朱が利いている。気に入ってしばらく眺めていたが、どうにも即興とは思えない。当時の粗末な語学力で、説明を読めば、「即興的に描いているが、何度も入念に構成し直したもの」と。

隠された意図は、受け手を試している。ただ、わざわざ隠しているのだから気づかれずとも、どうしようもない。

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久しぶりに、かつ、偶然に見つけた頁。

http://www.lifehack.org/articles/management/10-golden-lessons-from-steve-jobs.html

特に最後のものが気に入る。

Your time is limited, so don't waste it living someone else's life.

Don't let the noise of other's opinions drown out your own inner voice.

小林秀雄ならばこれを見て、誰でも判ったように振る舞うが、誰一人実践などしない、などと言いそうだ。威勢のよい方向性の議論は流行るけれども、では何を実践するかと具体的になれば、どこまで自分の声を聞いて、何ができるか?

黙々と実践して来たものは、実はそこかしこに居て、それは簡単に気づけたもの。「これを見よ」と言われて見たところで、今までの不明の因が治るわけではない。

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危機の警鐘に、それほど賛同した人間がいるならば、死に行く言語を最後まで護ったこの男に敬意を表されよ。

Isaac Bashevis Singer: Conversations (Literary Conversations Series) の商品写真  Isaac Bashevis Singer: Conversations (Literary Conversations Series)
著者: Isaac Bashevis Singer, Grace Farrell
出版社: Univ Pr of Mississippi

http://d.hatena.ne.jp/sergejO/20080629/1214717498

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或る音楽家の話。欧州留学中、教師に言われたそうだ。「ヨーロッパの古楽を愛するということは、お前の国の能や歌舞伎の音楽を心から愛することと同じだ。お前は自らの古楽を愛しているのか?」と。

外国語に精進することで、国語をさらに愛せ。

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鳴らせた和音が弱かったのか、人はメロディしか聞かないのか。

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敬愛する師の言葉、「予言はしておくものだ。当たれば賞賛され、はずれても誰も覚えていない」。

これから、意外な人物が、意外な場で、行き過ぎるほどに国風を煽る事態が増えると予想している。ある程度のものならば、それで良し。しかし、そこまでいかせるのかと驚く事態を懸念する。

純白の生地を染めるのは容易い。

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染料の質が悪ければ、色は直ぐに落ちる。

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文学を護る、一例。

「三島由紀夫」の誕生 の商品写真  「三島由紀夫」の誕生
著者: 杉山 欣也
出版社: 翰林書房

http://d.hatena.ne.jp/sergejO/20080526/1211729812

珍事は著者から一言頂いたこと。仄聞するに、このテーマを扱うからには、身の安全を図れと忠告する向きもあった由。著者は地方都市で、異種の分野の文化活動にも従事せらる。公に語られないものの黙々と実践する独歩の人物の一例。

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国語を護る、一例。今一度。

怠け数学者の記 (岩波現代文庫) の商品写真  怠け数学者の記 (岩波現代文庫)
著者: 小平邦彦
出版社: 岩波書店

なぜあれではなく、これを取るか。内包する問題の広さであり、また、この一数学者の言葉が、文人の技巧など及ばないほどに、生きていて、立派だからだ。この言葉にかつての教養の水準を感ずることなく、どうするのか。

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怪我をなさいませんようにと補助輪を売る。補助輪ばかりが、手を変え品を変え、売り出される。

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広さと質。

ウィトゲンシュタイン 天才の責務 1 の商品写真  ウィトゲンシュタイン 天才の責務 1
著者: レイ・モンク
出版社: みすず書房

http://d.hatena.ne.jp/sergejO/20080529/1212029908

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歴史を護る、一例。

信長の戦争 『信長公記』に見る戦国軍事学 (講談社学術文庫) の商品写真  信長の戦争 『信長公記』に見る戦国軍事学 (講談社学術文庫)
著者: 藤本 正行
出版社: 講談社

信長公記 の商品写真  信長公記
著者: 太田 牛一 校注: 桑田 忠親
出版社: 新人物往来社

信長公記』の記述を地理と照らし合わせて精読し、一般的に正とされる信長の講談的理解への批判を試みたもの。

いままで当たり前に歴史事実とされていたものでさえ、仔細に検討すれば、およそ違う姿が見えてくる。そう聞けばよくあることと思うものの、実際にこの書で目の前にしてみると、歴史を語ることも、おいそれとはできないと・・・注意する心を持ていればかなりましなのだろう。*1

*1:このネタはこれで最後ですが、個人の知の集積がどうとのたまう人が、結局大衆先導しているんじゃないの?という違和感に尽きます。煽るという行為そのものが、果たしてよいものか、私にはそうは思えません。裏で献本でも受けていたり、なんか打ち合わせでもあったら、TVの番組内宣伝と変わりません。下衆の勘ぐりならば良いですが。お仲間内で商売まわすのは、理解できますし、致し方ない事です。でも、そこに恥じらいはあった方が良くて、読み手の期待に沿う行為でないと判っていれば、恥じらいはでるものだと思います。