杉山欣也著『「三島由紀夫」の誕生』を読んで—研究の為の研究書でないのは気持ちよい

いきなり書評です。

しかも、もろ文学系。ここ数年、文学系は敢て読まないことにしていたので久しぶり(6-7年ぶり?)。*1

さて、この杉山欣也著『「三島由紀夫」の誕生』ですが、p.374で4,500円という書物

「三島由紀夫」の誕生 の商品写真  「三島由紀夫」の誕生
著者: 杉山 欣也
出版社: 翰林書房

文章は難解ということはないのですが、話題も、三島といっても初期三島のことで、平岡と学習院文化と言ってよいものです。特別に興味がないと読む終えるのは面倒というものではありましょう。1940年前後の三島由紀夫のteenager時代の話。しかしこれ、著者の姿勢を考えると、類書は他にないものかと思います。

ここに驚かれて下さい。世の中にこれだけ三島由紀夫関連の本が溢れているのに、類書が他にないのですよ。

この次点で興味が惹かれたら、ぜひどうぞ。著者の姿勢はニュートラルですし、三島ファンにも、notファンにもオススメできるものでしょう。

値段も値段ですし、頁数も頁数なので、読み進める前に、合う/合わないを判別したい方もいらっしゃいましょう。その場合は、書店にてp.298からの終章(約10頁)を先ず読めば、著者の意図・目的がはっきりし(結構、熱い想いっ)、その為の方法論・論理の組み立てなどは、冒頭の序章(20頁程度)を読めば、概要は判ろうかと思います。

一つ注意するとすれば、タイトルが

 三島由紀夫」の誕生

というものなのですが、これを

 ここに起源あり

と読んでしまうとまたちょっと違うかなと。なので、こんなタイトルでは売れませんが、

 「三島由紀夫」の誕生の頃の話です

ぐらいに捉えた方が宜しいかなと。

私流に解釈した限りでもっと言いますと、これまでの初期三島論は、晩年の考えや行動から振り返って見るというもので、初期の作品・伝記的な事柄に、晩年の考えや行動の、もっと時間的に早い原因、もっと心の奥にある原因を探るというものでありました。時間的に早くて、心の奥にある原因を提示した方が偉いという考えです。当然、幼少期から晩年まで一貫した人物像が出来上がります。

著者はそれは如何なものか、、、と、実際に学習院時代の活動や書き物、書き物と言っても、文章そのものだけでなく、発表された場まで見てみます。三島自身その頃のもろもろを語りたがらなかったそうですが、そこを敢て見てみる。そうすると世間一般的な分析、解釈、語りとはまた違う見方ができるでしょう?こんな風に・・・という著作

なので、、、と、なのでが奇麗につながるか自信がないのですが、この本に書かれた初期の時代に起源ありとして、(晩年から初期を解釈する向きを逆にして)初期から晩年を解釈して一貫した人物像をつくり上げる・・・なんてことはこの著者はしないだろうと予測はつくわけで、実際、そんなことはしていません。

かくなる次第で、著者杉山氏が、三島研究をまた発表するとしたら、どこかの転換点を見つけて、以前・以後の比較で語るものにでもなるのかなぁと想像しました。*2

・・・とまぁ、判ったような判んないような話ですが、もうひとつ序でながらで書きますと、実際に読んでいると、初期三島研究なのか、当時の学習院的文化研究なのかどっちなのだろうと感じることもしばしばで、私自身は後者のトリビアな話を「へぇぇぇ」と楽しんでいました。ほんとに面白いです。三島はこういう人物ですといった明確な何かを持つというより、三島とその周辺事情について、あーそうなんだ、へぇ、いろいろあるんだなぁという感想になるような気がします。*3

万人向けではないのでしょうが、なかなかこういう問題意識でものを書いた文学系評論・研究書も少ないので、面白いことも多々あろうかと。なんにせよ書店でぱらぱらっとめくって確かめてくださいませ。ぜひぜひ。

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いきなり昨日のエントリーからのこの変わりようはなんだ?とお思いの向きに。

強いて言えば、微タブーねたつながりってやつであります。

sergejO拝

*1:これを知ったのはCVLTVRA ANIMI PHILOSOPHIA ESTのブログを通して知己を得ましたkenさんのお陰です。丁度一回り上くらいの方で、内容はご覧の通り、(アマチュア)演奏者の立場で広く深く綴られるというもの。何故か、せるげーの頁を評価してくださって、しかも、こちらが考えていたpositioningというのか、そんなものをずばり言い当てたり・・・ありがたいことでございます。

*2:はっきりと転換点があるというのも、わかりやすくて好まれるストーリーですよね。人によってはあるでしょうけれど、、、。人には生涯変わらない大事なことも、たびたび変わる大事なこともあって、という方が実情に近いのではないかなぁ

*3:徹頭徹尾人生を一環したなにかがある!って神話はなんなんでしょうね。あるのかも知れないけど、なんですかしらね。事実は混みいっている!と示すより、簡単なレッテル・神話を示すと売れやすいのでしょうけどね。そーゆーのあれですね・・・