先ほど放送されたマンガ夜話。取り上げた作品は、志村貴子 作『青い花』。
青い花 1巻 (F×COMICS)
著者: 志村 貴子
出版社: 太田出版
私は本年第3四半期のアニメーション版を見てから、気に入っていた作品でした。
青い花 第1巻 [DVD]
原作: 志村 貴子 監督: カサヰケンイチ 出演: 高部あい, 儀武ゆう子ほか
販売元: メディアファクトリー
自分がどう楽しんでいたかと云うと、「なんだかわからん」と思ったり、「へぇそんなこと考えるんだ」と感心したり。絵柄といい、実にささいな言葉や態度その他もろもろに、「細か〜」と思ったり、「なんてーたわいのない」とも思ったり。何はともあれ、こんな淡くて、何が実態なのかほんとなのかよく判らないけれど、やはり、やさしいという他ない世界。こんなもの、日本の女子以外に書けまい!と、なんとなく誇らしくも思っていたのでありました。*1
さて、この番組ではときどきあることですが、特に本日などレギュラーのおじさんたちが空回りしていたように感じましたが如何?その点、ゲストの若い女性二名−喜屋武ちあき&村井美樹−は、最初からずばずばと正しい批評をしていたと思います。特に前者の喜屋武さんは、レギュラー男性陣に、突っ込まれていたけれども、そりゃ普通の若いマンガ好きだから説明に慣れてなかったり、当たり前のことをすごいと思ってしまう所は多少ともあったにせよ、基本的にはおかしいところはなかったので、突っ込んだ方が大人げない。
その両名が、冒頭から、この何とも言えない空気感、たわいもない日常といった話をすると、石川氏が「そんなことは判るけど、それが本質か?」、夏目氏は「空気感どうこうの分析なら自分はできるけど、それ以外が云々」と、うろ覚えなので正確な言葉遣いではないですが、まぁそんなことを。それをいっちゃあオシマイでしょう〜と、なんとか話を広げたかったのかも知れませんが、番組の終わりには、やはりその辺でまとめざるを得なかった。つまり、それでいいってことです。「少女漫画ではない」としておきながら、「読者対象ははっきり意識してなくても、女の子でしょう」となったのも、おじさん無理してややこしくせんでも・・・と。
そもそもまだまだ連載途中の作品で、最新刊の四巻で、♀x♀の肉体関係の展開が少し強くなりそう・・・いままでの淡い感じどうなっちゃうの?となっているところ。今の時点で、どうこういってもしゃーないので、本作品を取り上げた事に少々無理があるのであります。
そんなこんなで、おじさんレギュラーは終止みっともないと言ってもおかしくなく(失礼!)、「この作品がわからない」とか、「この作品がつかみきれない」とか、そんな言葉も繰り返されました。そこまで言うなら、むしろ、判らないと感じているのは、一体なんなのか、♂の視点ではっきり云うべきだったのでは? それを言わないから、議論が錯綜したかなと。
私自身が、この作品について、友人の♀好きでもある♀と話した情景です。
私「これ面白いんだよね。かっこいい先輩の杉本さん(♀です)を好きな女の子二人−ふみちゃんと恭子さん−が一緒に喫茶店いくわけよ。恭子さんが誘ったんだよね、ちょっと無理して。で、たわいもない話をしている内に、まず恭子さんが、次にふみちゃんが泣き出しちゃう。どういう訳かって言うと、恭子さんは、杉本先輩とふみちゃんが付き合っているのを知っている。で、自分は振られた。目の前の恋敵が幸せなのに、自分はみっともなく振られちゃって・・・と泣き出しちゃう。で、ふみちゃんは、ふみちゃんで、杉本さんがほんとは自分を好きでないって判っている。その場の雰囲気も半分あって伝染なんだけど、やっぱり泣き出しちゃう。・・・これがさ、わからないんだよね、あーゆー気持ち。」
♀友人「なんで!?なんでわかんないの???その通りの状況でしょ。なら、泣くよー。」
なんてことはない、自分は単に ♀x ♀ の関係が想像できないとか、こういう状態で泣くという行動を取らないから、気持ちも判らないと思っただけなんだと気付いたのでした。番組中、石川さんが、「男同士でさ、学生が、手をつないだりして帰んないから、わかんないよ」といったことを仰ってましたが、実は判らん、判らんといっているのは、その程度のことなのでは?*2 *3
その他、番組内の論点に幾つか触れておくと、
◎本作品はリアルなのか、ファンタジーなのか?
これがファンタジーなら、殆どのフィクションがファンタジーになるし、「殆どのフィクションがファンタジー」という考えは別におかしかない。こういう仕分けは難しいです。変な話、『リア王』だって、カフカの『城』だって、リアルにしか見えないという人が居たって、おかしかない。
リア王 (光文社古典新訳文庫)
シェイクスピア著 安西 徹雄訳
出版社: 光文社
城 (新潮文庫)
フランツ・カフカ著 前田 敬作訳
出版社: 新潮社
現代を舞台にしているとしか言いようがないだろと思って聞いていました。どっちなのかのはっきりさせない辺りを意図的に狙っている。そう考えるのが、素直な読みかも。
石川氏が、大人がまず出てこない、出てきても描かれていない、ほんとに女子学生同士の世界を切り取ったから、なにか現実感に欠ける狭い世界といった見方を提示していましたが、実際の学生生活ってむしろそんなじゃないの?とも思いますが、どうでしょう? 本作品は、そこそこ裕福で、大概は核家族の家庭から私立校に通う女子の話ですから、まぁこんなもんじゃないでしょうか?わたしは男子校に通ってましたが、各人家庭に事情があったかないか判りませんが、そんな話、お互いに滅多にするわけでもないし、たわいもなく過ごしていたような。*4
◎性的な事柄をグロテスクに描かない
この作品での、♀x♀関係について、「そんなのおかしい!」という登場人物がいないのも変だよね、という指摘は確かにそうではあるのですが、それだと、♀x♀関係が世間の規範に沿うかって話をしなければならない。作者は、そんなとこに興味が無いので、さらっと承認したのでは?アンモラルの引け目を感じつつ組んず解れつ・・・なんて物語は幾らでも他にあるわけですし・・・とは言え、ストレートであるヒロインのあーちゃんが、ふみちゃんに体込みでせまられたのが昨今の展開で、今後そういう部分はでてくるのかも知れません。今後、この作品が楽しみと村井さんが仰っていたのは、まさにその通り。
そもそも、この作者の作風が倒錯的な性関係や恋愛の情念をさらさらっと描くという指摘もなされてました。この作者の新しさは、そこにあるんじゃないかなと私など感じている部分。これは単に作者の作風と思ってもいいけど、もしかしたらこれはこれでリアルではないかとも思います。
官能小説用語表現辞典 (ちくま文庫)
編: 永田 守弘
出版社: 筑摩書房
グロテスクな体温や汗も伝わるかれこれ、情念のなんやかやを描く。それを楽しんで読む。書く方も、読む方も、自分の生活に元々それがないから、ないしは、あったとしても事が終わればもう忘れて残らないからこそ、そんな生々しい描写を楽しんでいる。そう考えれば、実は、さらっと何事もなく進む方がほんとはリアルと言えまいか・・・なんだかややこしいですが。この世に、恋のなんたらのストーリーが一切なければ、「好き」という感情さえ、各人各様随分違って感じるものでは・・・すると本来どこまで生々しいものなのか・・・などと思います。*5
作品の登場人物は、♀x♀の傾向であってもそれが疑似恋愛だったりして、その他もろもろ実に一過性な感情を描くといった指摘もありましたが、実のところ実生活もそんなものであることが多いのでは? 大体、♀x♀関係も、私など存外身近に「あんたもそうなの!?」という女子連が居たり居なかったりで、この作品のようにさらっと書いてもおかしかないのかも。
◎夏目の目 余白の使い方
これはもう読んだ皆さん、いやでも感じる部分だろうから省略。作品と実にマッチした絵柄というのは、実にその通りで、良い作品ってそもそもそうではないでしょうか?ストーリー重視で読む必要はないのは、ストーリーが作品の主要な一部であっても、その作品がストーリーだけから成っていないからで・・・。
喜屋武さんが、ジャケット買い(表紙買い)したということで、多少奇異な目で見られてましたが、自分自身を振り返っても、マンガって絵柄で読める・読めないを決めている事も多い。それでも別に悪かない。
・・・という次第で、作品を知らない方、番組をご覧になってない方には、なんのこっちゃいきなりという話になりましたが、ぜひご覧下さいませ。
青い花 8巻 完 (F×COMICS)
著者: 志村 貴子
出版社: 太田出版
では
p.s.:番組の雰囲気については、出演者の方のブログ記事が参考になりました。http://okada.otaden.jp/e13530.html
*1:女房文学の伝統? 紫式部日記(上)全訳注 (講談社学術文庫)
全訳・注: 宮崎 莊平
出版社: 講談社
*2:なので、石川さん同様に、「こーゆーの、まったく判らん」という女性も勿論居る。居ました。・・・なんだろう、「実感をこめて判る。自分もやっちゃう」という意味ではわからないけれど、「そういうことが起きている。そういう人もいるよね」という意味ではわかる、って感じ。
*3:「女の涙は判らん」というのは、また話が違います!
*4:何タラ運動世代でないなら、そんなものでは?そういう意味では、『けいおん!』をたわいないと云う意見も多いけど、まぁ生活はそんなもんだろうとも思う者であります。「世界は麩菓子でできてない」というゲーテの格言はわかるけれども。そもそも息抜きなんだし。この世代は、息抜きもそうでないのも境目が曖昧だろうし。 けいおん! (3) (まんがタイムKRコミックス)
著者: かきふらい
出版社: 芳文社
*5:石川さんが、大学生がなんでちゃらちゃら女子高生にまとわりついてんだか、、、って言ってたことには同感。その登場人物の大学生は、「さすがKO大学www」と勝手に思ってます。