友人M曰く、アフリカーンスを知らないなら、世界一の笑いの世界を知らないって思った方が良い − そして、落語のすすめ

南アフリカの仕事をしていた時のマブダチ(?)のM。

「すっげー、なんか古代ローマ人だよ、、、」

書かないけれど、そのMで始まる名前に興味を持ちました。実際、そういう名前が多いのか知らないが、そう思ったんだから仕方がない。

しばらくメールのやり取りばかりでしたが、こちらが向こうに行ったのか、向こうがこっちに来たのか、実際に合う事になって、さて、あのローマ人は、どんな男か・・・と思ったら、

"Would you like to know my first impression of you, M?"

"??? Well, tell me, Sergej-san."

"......Smuggler."

"Smuggler!?"

"Yes. When you find an uncomfortable term in a contract, you stub your cigarette out on it."

Mの上司 "Sergej-san! 100% I agree with it!! Cheers!!!"

「日本人でそんな事言う奴は初めてだ」というから、「本来、日本人なんてこんなのばっかりだ」と言っておきました。

あいつの来日中の珍事は傑作で、宿泊先で用をたして、はてさてレバーをどちらにひねるのか???大 も 小 も象形文字だから、、、と判断して決めたそうです。大 ならば、尻と言えば、後は想像できましょう。漢字の成り立ちに新説発見であります。

牛肉大国から来ただけに、日本で出される紙のように薄い肉に閉口し( it's not a steak. a sheet! )、豚汁というから、それでも肉だと喜べば脂身だけ。宿泊先が片田舎で、ひと月も英字新聞もなければ、TVも二重音声で聞けない状態で、受け入れ担当部署で誰も家に招いてやっていないと聞けば、さすがにあわれ。連れの男Fと − こちらはMと正反対でピュアな少年合唱団員のような外見に、信じられないほど純朴な精神の持ち主。太っちょ天使のF君。 −実家に招待したら随分喜ばれました。

MもFも勿論英語を話すけれど、ボーア人だから、ほんとうの言葉はアフリカーンス。二人が話すアフリカーンスは一つも分らないけれど、リズムも音も間も楽しい。

「アフリカーンスって、コメディ面白いんじゃない?二人の話を聞いていて、そー思うけど」

そこで、Mが答えて、Fも相づちを入れたのが、タイトルにした台詞です。

「アフリカーンスを知らないなら、世界一の笑いの世界を知らないって思った方がいーね」

どんなもんかと聞くと、MもFも仕切りに考えたけれども、結局は、

「なんといっていいか、わからない。これはアフリカーンスで聞かないとどうしようもないんだ。でも、そういうもんだろう?英語に訳したって、面白くないんだよ。翻訳するにも言葉だけじゃなくて、日頃のコミュニケーションもなにもかもすべてが笑いにかかっていて、、、」

そういうもんだと思います。

「日本にも落語というコメディがあって」

「落語?」

「stand-up comedy みたいに独りでやるけど、座ってやるからsit-down comedy」

「(笑!)」

「それって、西欧化する前の日本、Edo-eraね、その間にできたコメディなんだけど、面白いんだ。翻訳できるかも知れないけれど、生活なりすべてに関わっているから、言葉だけ訳してもだめ。身振り手振りはあるけど、でも大袈裟でなくて、、、なんにせよ面白い。」

「ほーー。アフリカーンスのコメディもなんというかPoker faceなんだ。似ているかも知れない。」

「だから、Mの言うアフリカーンスのコメディって、きっとすっごく面白いんだろうなって、そう思うよ」

「Same as Rakugo!」

*****

という訳で、落語の話。

「文学が国語の精髄だ」なんて話は、そうそう肯定しにくいもの。完成されている(らしい)明治文学だって、実は苦心惨憺の結果です。漱石の特に初期に於いて、漢籍だけでなく、落語の影響を、泉鏡花ならば謡曲を想起しないのは無理でしょう。では、そのアイディアの元と比べて、完成されていると言えるかどうか中々難しいものです。*1

ちょっと歴史をさかのぼると、文学屋の文学なんてくっきりしたものがあるのか判らなくなってきますが、いつの間にか、どうにも文学が文学屋のものになってしまったというか、国語が文学屋のものになったというか、、、なんだかややこしいですが、イギリスの小説はジャーナリズムに発端ありと思えなくもなく、フランスなどでも、スタンダールが、さんざんナポレオン法典読んで、簡潔な文体を手に入れようと苦心したという話もありまして、、、兎に角!!

 ぐずぐず言ってないで、いろんな本物の日本語に触れましょ〜

が、言いたいことです。本ブログのテーマの一つでもあるのかな、いい加減ですけど。*2

で、本日は落語篇。私は、基本、志ん生、金馬、米朝を繰り返し聞くだけで、圓生は好みでないけれど、彼の持っていた危惧には共鳴し、尊敬するものですから、非常に基本的です。

年末年始、どこにまわしても似た様なTVを見るならば、ご家族揃って、じっくりと落語のDVDを鑑賞されては如何でしょうか?

妙案でしょ?

現役、といっても半ば隠居の米朝 (桂米朝 かつらべいちょう)。米朝と言えば、いつぞや勲章貰ったときでしたか、TVに出演して、その言葉は仲間内で大変話題になりました。キャスターとは格が違うとしか言いようがない。キャスターが自分の好きな方向に話題を持って行こうとした時、やんわりながらもピシャリとそれを止めたのが記憶に残ります。

落語といっても、馬鹿話だけでなく、後ろにある精神を聞いているかと思うことがあるのです。

米朝は、上方落語復興の功労者の一人ですが、現在ある録音・録画の演目ではやむを得ず説明過多になっているものも多い、と思っています。そこで、会話勝負で素晴らしく、とっつきやすいのが、胴乱の幸助

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収録作品: 風の神送り 平成2年9月18日 大阪コスモ証券ホールにて収録(31分) / どうらんの幸助 平成3年3月12日 大阪コスモ証券ホールにて収録(33分)
販売元: EMI MUSIC JAPAN

声だけで十分聞かせますが、最初はじっくりと身振り手振り表情を。私なんて、なんだかんだとほんとこればかり聴いてます。古い映像だから苦手という方はもったいないので、この辺りから親しんで段々古いところへ!

先日の落語ブームで、TVで特集も組まれた志ん生 (古今亭志ん生 ここんていしんしょう)はみなさんご存知かなと。どうでもいいばかばかしいことを言っているようで、よく聞いていると、いろんな要素がある。テンポと声量、間で作る、大きな流れも素晴らしい。

抜け雀など聞いていると、ほんとパッとふすま絵の雀が飛び出すようで、これはほんといまどきのCG映画を見ているようです。聞いているだけなのに。脳の刺激・働きは、CG映画よりも活発と思う。こういうことが、大事なのではないかしら・・・

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五代目古今亭志ん生の名演集シリーズをリニューアル。人気の演目に加えて、未CD化の音源をAPPカンパニー(小島氏)監修のもと、組み替えたリマスタリング盤。全48タイトル!
販売元: ポニーキャニオン

48タイトルもあって、どれか迷いますが、初めての方は、火炎太鼓、品川心中、抜け雀、風呂敷あたりを聞いてみると間違いない。で、それだけあったら、それを繰り返し聞いているだけで良い、聞いていると自分もマネして口に出している・・・これが典型的パターン!?

風呂敷にはDVDもあって、やはり、某所にもありますがDVDもあるのでご覧くださいませ!見ていると、いい加減なのか、至芸なのか判らないところが、おっかしくて、しょうがないです。

もう一人、おすすめするのが金馬 (三遊亭金馬 さんゆうていきんば)。先代の金馬と呼ばれる方です。よくつっかえるのですが、面白い。低音のちょっとダミ声系ですが、それでいてほれぼれと聞かせる、さすが!の名人です。

金馬も目黒のさんま薮入り等々、こちらもいろいろ挙げたら切りがありません。

落語決定盤 三代目三遊亭金馬 ベスト の商品写真  落語決定盤 三代目三遊亭金馬 ベスト
二枚組 収録作品: Disc1. 居酒屋 1958/11/2 NHKラジオ放送 2. たがや 1956/4/21 NHK 3. 花見の仇討 S34.4.5 NHK Disc.2 1. 茶の湯 S31.5 NHK 2. 小言念仏 S34.5.21 NHK 3. 藪入り S30.3.4 NHK
販売元: 日本コロムビア

このベスト、目黒のさんまが入ってない。興味があったら、ぜひCDお探しください。

金馬の映像もありまして、某所で見られたりしますが、こういう名作はほんとぜひダマされたと思って、見て細言い。

わいわいでの英語馬鹿話も、ここら辺のものが生きている実感があります。

未聴でしたら、騙されたと思って、ぜひどうぞ。いろいろ聞いて行くと、馬鹿ばかしでなくて、その人そのものを聞いているということが、しっくり判ってくるかと思います。

大真面目にすすめています。これらを楽しんでない場合、漱石なら『猫』、『草枕』、『坊ちゃん』あたりを読んでもすっかり抜けている楽しみがあるのではないでしょうか?*3

一回、二回聞いても、いまいちだったら、、、三回、四回と聞けばいーんです。なじんできて、じわっと染み込むものがあるのです。クリスマスやお正月も近づきましたので、プレゼントにもご考慮を。

では。*4

*1:このブログは基本的なことをカバーするのが目的。基礎的なことを方々漁って、好きになったものだけ各自で掘り下げて行けば宜しいかと。

*2:うっすらお判りの方も多いと思いますが、近代文学読んでるてーどで「にほんごがほろびるとき」を語っちゃってる人なんかへの嫌味です。まともな人間なら、明治以前の埋もれたものに行くと思うのですが、、、。現代ピアノは完成されている、スタインウェイ最高信仰みたいのと似てますね。

*3:勿論、あんまり真面目に追求して、その作家の居た物質的・精神的空間全体を知らないと、、、とまでなると、それは研究者がやることで、、、となりますが。。。その辺りのバランスは難しいことと思います。他人の人生過ごして、終わっちゃいますから。微妙に曖昧なところで、コミュニケーションを成り立たせ、互いに価値を実現するってのが、やるべきことなんでしょう。
漱石の楽しんだ三遊亭円朝の講演速記の全集。

怪談牡丹燈籠 塩原多助一代記 鏡ケ池操松影 (円朝全集 第一巻) の商品写真  怪談牡丹燈籠 塩原多助一代記 鏡ケ池操松影 (円朝全集 第一巻)
著者: 三遊亭円朝
出版社: 岩波書店

ついでに言ってしまうと、時代劇を作る人は、せめてこういうものを読んで欲しい。講談系は手垢がついているからと読まないというスタンスもありで、それなら、むしろまったく読まないで、公的な軍記物や書状などだけ読むのでもいい。ただ、そこらの教養がおよそ無しで、現代の本しかあたらずに、現代劇に着物着せたようなものやるのは安易過ぎるし、しばしば害悪だと思う。美しく無いです。

*4:初めに、DVDを見ておくと、後でどのCDを聴いても、いろいろ想像が利いて良いかも知れません。後は、古いところで、やはり文楽は落とせないところでしょう。むしろ、文楽ファンの方には、私の好みもあって、上に取り上げず申し訳ないです。今回は、金馬を強調致したく、、、。そうですね、少し新しければ円楽、最近なら小三治が真面目で好感を持ちます。こんなのは有名どころの話ですが・・・