中学生からかな?2008年 夏休み用の割と古典文学名作案内です〜 2 of 2

前回 http://d.hatena.ne.jp/sergejO/20080727/1217098632 の続きながら、いざ探すと結構難しいものです。

翻訳がいまいち(←と私が思っているだけ!)ですと、これまた紹介しにくい。

大好きなD.H.Lawrenceなどは、単語をさまざま駆使するタイプではないので英語で読んだ方が、、、と思ってしまいます。

D.H.ロレンスは折角なので少々触れると、最後の二作品『翼アル蛇』(現在、絶版中の様です、、、!!!)と『チャタレー夫人の恋人』は実に傑作。せめてこれだけは!とお薦めしたい作品です。いずれ取り上げることもあるでしょうが、ペンギンから出ているケンブリッジ校訂版がいいのかな?AmazonですとNew Edition版と記述。

『翼アル蛇』はメキシコを舞台に、イギリス女性が現地の土俗宗教を使った革命運動に巻き込まれるというもので、ロレンスでは構成がしっかりしている作品と言っていいのでは?章ごとの静と動の対比が見事。ロレンスの文章は紙の下に血脈が打つかのようですが、この小説でも出だしの闘牛場の場面からしてそのムッとした熱気が伝わり、そこに惹き込まれると止まりません。

『チャタレー夫人の恋人』は晩年のロレンスの透明な文章がもっとも出ている作品でしょう。書かれたのは20世紀の前半ですが、これこそ真に現代的でエモーショナルな作品と感じます。



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では、翻訳が気にならなくても、『ゲーテとの対話』などは、エッカーマンが文学に話をふり過ぎで、ソレの備忘録を基にした下巻が面白いのにそこまで長々と読み続けられるか、、、わたしはゲーテが好きだったので人文書院の全集もすっかり読みましたが、広く進めようかと思うとちょっと躊躇してしまいます。

プルースト『失われた時を求めて』は、鈴木訳が文庫で手に入れやすくなりました。これが出る前の訳はひどかった。そのせいでモンクリフ&キルマーティンの英訳で読んでいました。鈴木訳も随分読みやすくなったとは言え、やっぱり自分にはモンクリフ&キルマーティンの方が読むのは時間が掛かっても、気分は楽かな、、、これまた長いので、何年も掛けてじっくり読むのがいいのでしょう。夏休みに全部というわけにもいきますまい。

カフカは前もちょろっと書きましたが、勤め人やってからの方が面白い!!中学生にはまだ早い大人の世界です。

BBC DVD シェイクスピア悲劇集 その1の商品写真シェイクスピアも、せめてリア王は、、、と思いますが、何分文章が詩的なので、苦労しても半知半解でも英語で読んだ方が面白いかも知れず。とは言え、引用されることは多いので、『ロメオとジュリエット』ヴェニスの商人十二夜『お気に召すまま』最後の四大悲劇などは読んでおくといいのでしょう。芝居ですから、芝居で見ると良いのですが、、、かつて教育TVで放送されていた筈のBBCによる古典的演出がDVDで発売されているにもかかわらず、輸入盤のみで日本語訳なし!さすがに詩の文章はわたしもダメ。それに日本のAmazonで扱っているアメリカ版はRegion1(イギリス版もあってこれはRegion2ですが、その代わりPAL方式です)。

悲劇集その1その2に別れていて、四代悲劇の『リア王』だけは2に持ってくるのがまたイヤらしい!

NHKの教育TVの放送は字幕もあったのですが、どうにかならないのかしら。再放送してくれればちゃんと撮るのに、、、

内容で言うと、私に好き嫌いがあるのがまたどーしよーもなく、例えばルソー『告白』なんてなんだありゃとしか思えず、、、

その他ももっと古典に行って『アベラールとエロイーズ』などそんな大層なもんでもなかろーとかなんとか言っているといろいろ数は少なくなります。。。

鈴木道彦訳 プルースト『失われた時を求めて』第一巻の商品写真フランスものはどーですかしら、『赤と黒』『ボヴァリー夫人』は挙げたいところですが、、、読んで「これは傑作だ!」と思ったのですが、その後、20余年開いてもないので省きます。なんと言ったら良いのでしょう。いやもう偏見なんですが、思いだすとジュリアンだろとエンマだろうと我慢が足りないな、、、と、まー偏見です。

ランボーは詩なので、翻訳であげるのはやはりなんでしょう。フランスから一つ挙げるなら、プルーストで十分で、あれこそ本当に傑作かなと思います。が、何分長いですし、ちょっと読んでは止めるという読み方になるでしょうし、、、

などといろいろ選別は考えてしまいますが、ここはえいやっ!で参ります。



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傑作にこだわらず、佳作を二つ!



イヴリン・ウォー『ブライヅヘッドふたたび』

イヴリン・ウォー『ブライヅヘッドふたたび』の商品写真傑作と言うには、なにか弱い気もしますが、吉田健一の名訳もあって、私は大変楽しんだのでお薦めしましょう!

懐古小説ですが、私がこの小説が好きになったのは冒頭のとある場面。第二次大戦に従軍した主人公が、新たに上官となった愚劣な男とのやり取りをきっかけにいまの生活にすっかり愛想をつかすのですが、

それは丁度、一人の夫が結婚四年目に、前は愛していた妻に対して、欲望も、優しい気持ちも、尊敬ももうないことを急に知ったのに似ていて、一緒にいるのが嬉しくもなければ、妻を喜ばせようとも思わず、妻がすることも、言うこと、考えていることに全く好奇心がなくなり、それをもう一度もとに戻せるという希望もなければ、この失敗に就ての自責の念も湧いて来ないのと同じだった。

主人公が男ですから、こう書きますが、読み手が女性でもこういう愛想の付かし方は、いつぞやの男でも思い出してピンと来る方は多いものでしょうか?

こんな調子で、現実との少し冷めた距離感で綴られる作品で、途中少し中だるみするやも知れませんが、立派な佳作と思います。



トーマス・マン『ブッデンブローグ家の人びと』

ブッデンブローク家の人びと〈上〉 (岩波文庫) の商品写真  立派な佳作のもう一つは、トーマス・マンの最初の長編。これも失われた時代を回顧的にという作品。

実になんということもなく、富裕な商人家庭が三代掛かって没落するだけの話ですが、ゆったりとした波が寄せては返すといった、そのリズムが今でも強く思い出されます。

懐かしむだけでもなく、没落が当たり前のようにシニカルにもならず、滑稽に逃げることもなく、上のウォーの作品もそういうところがいいのでしょう。やや冷めた態度も、それは制作にあたっての客観的態度とでもいうもので、素直というか真面目というか、奇を衒うところがない。

傑作というより、佳作の傑作というものかなと。

トーマス・マンで言うと、わたくし『魔の山』はどうしても200頁以上に進みません。いままで四回トライして、どうしてもそこで止めてしまう。。。



●ロレンス・スターン『A Sentimental Journey』

ロレンス・スターン『A Sentimental Journey』の商品写真挙げまい挙げまいと想いながら、どうしても英書で一つ。ロレンス・スターンの中編小説『A Sentimental Journey』。これは百数十頁と大変短いものですので、夏休みに是非トライを!

スターンと言えば何と言っても『トリストラム・シャンディ』ですが、やはり日本語だとどうかな、、、面白いのですが、滑稽なところがやっぱりどうしても出にくい、、、なんて言っていたら、翻訳なのでしょうがない部分もあるのですが、、、

英語でしたらこの『A Sentimental Journey』なら楽しんで読めばあっと言う間でしょう。『トリストラム・シャンディ』の続編という体裁ですが、そこはまったく気にしなくて大丈夫です。

この小説、ちょっとフランスまで行ってみたく旅行はじめてしまいました〜という、、、ほんっとにそれだけもので、滑稽話でところどころクスッと笑わせるに過ぎないのですが、、、いや、もう、ほんと馬鹿馬鹿しいけれども『トリストラム』ほど荒唐無稽でもなく、独特の浮遊感・余裕といいますか、これはおいそれと成せるものではないです。傑作です。

大げさなあらすじゼロ!文章がほんとに楽しくて、ちょっとした視点、それが変化するリズム、文学と言うものが、あらすじだけを楽しむものではなくて、作品の持つ根底的な雰囲気を楽しむものであり、そこで作者と交流するもの、とよく判る好例。

さてさて、最後に挙げる作品は!



●スウィフト『ガリバー旅行記

岩波文庫 スウィフト『ガリバー旅行記』の商品写真昨日今日と通してみると、イギリスに偏ってしまいましたが、最後に挙げるのはこのジョナサン・スウィフト『ガリバー旅行記』

厭世観と言えば、厭世観ですが、哀しんだり、はかなんだりはしません。まっこうからくだらないと言う。それが素晴らしい。こんなに不機嫌な小説は他にないでしょう。かろうじて挙げられるとすれば、『ボヴァリー夫人』かも知れません。

スウィフトも大して読んでいませんが、日記や手紙の類いにちょっと目を通した限りでも相当な偏屈で、おぼろげな記憶で書きますと、「金満家の某が、向こうの馬車から挨拶をしてきた。鼻持ちならないので無視してやった。」などということもしょっちゅう出て来ます。しかし、『ガリバー旅行記』は嫌味や偏屈などではなく、根底にほんとうにうんざりして、呆れて、怒った経験がしっかりあることは、すぐに感じられると思います。

ウィッグ党にもトーリー党にも近かったことがありますが、基本的には一人の人間として、体験し、理性的に考えて、発言する。

党派に寄らず、理性的に批判することは、現代日本にないのか、失われたのか、巷には賛嘆の文章のみ溢れ、批判となれば、乱暴な口調やら、声ばかり大きいだけだったり。ヤフーの国さながらで、鈍感力なんぞがもてはやされるのも無理は無い。

そんな中、スウィフトの姿勢に感心できることは多かろうと思います。

スウィフトは文人とも言えない生涯を送りましたが、これは理性的に考える受け手の各層の各人がいたからこそでもありましょう。

墓碑銘はラテン語ですが、それを英語から重訳致しましょう。


ジョナサン・スウィフトの眠る、、、激しい怒りももはや心を引き裂くことのないこの地にて。行け、旅人よ、汝がその器ならば、自由のために奮闘したこの男をまねて見よ。

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二回に亘って書きました当たり前と言えば当たり前なお薦め集。

古典的名作は、判ったような顔でシニカルでもなければ、軽薄故のポジティブな態度ともまた違って、実に独特の素晴らしいものですから、一つ読んでみようと云う手助けになれば幸いです。

お粗末様でございました〜

2016年某日注:

今世紀入ってからの作品は・・例えば、ジョイスでもフォークナーでも、ものの見方は別に変わらないけれど、言葉の操り方・提示の仕方が混み入っているだけで、そういうものまで読むなら、いままでやったことのない別のことをやった方がいいんじゃないか・・・と思う性質であります。

インドアで本ばかり読んでいたなら、それこそロッククライミングとか、

それなりに激しい格闘技とかやった方が、

それこそ感性や言葉も良い影響を受けるのではないか・・・
逆もまた然りでありますね。いろいろやるに如くはない。