映像を語る会 第1回(2008年7月7日) − 小津安二郎

知人に映像作りの卵と卵の卵の方が居らっしゃるのですが、私が映画好きで、お仕事やこのブログ以外で暇を見つけてちんたら創作していたりするので(超ちんたら。映像ではなく書きもの。)、掲題の会を開くことにしました。ってもう開きました。

毎月第四月曜開催が基本。

趣旨とか目的をてきとーに箇条書き:今後、変わる可能性は大いにあり。

  • 映像について、日頃思っていることを語るのは楽しいぞ
  • 映像と言いながら、音楽でも、小説でも、漫画でも、絵でもなんでもいいんだけど、一応映像にしておく
  • 大体、創作する人間は嫌いな物は見ない!人が相当薦めても自分が見つけてないから見ない!!ので、結構、inputする量、分野が知らず限られたりするもの。こういう会で、無理矢理他人に見せられて、存在があることだけ知っておくのは悪くはないだろう。←というか、自分が「なんかおもしろいもんあったら、おせーてー」という

参加者:今現在3名。増やす予定もなし。

  • AZさん(仮 30手前):80年代以降の映画、ドキュメンタリー、Music Video、写真。
  • Mcさん(仮 20後半):80年代以降の映画、アニメーション、漫画、ゲーム、ニコ動&YouTubeまわり
  • せるげー(仮 30半ば):映画初期〜80年代以前の映画。映画以外のいろんな古典。

・・・ということで、それぞれ適当に得意分野が違うのがいいかなと。

わたしの(大)学生時代は今の映画美学校系な(←AZさん系な)映画ブーム。あの頃、通産省がCG系の映画スクールを作って第一期生募集なんてあったのですが、選考論文に「現実の世界に驚かないならば、既にある脳内イメージで陳腐な物を作るだけ」と書いて見事落ちました・・・←それが原因かどうかは兎も角。*1

*****

で、今回は「いいだしっぺが、りーだーしっぷ」の原則に伴い、私の番。「日本人だよな、、、やっぱり、、、、」と小津安二郎

ちなみに二人とも、最近の若い子とは年齢的に言いにくいのですが、あのおかしな映画ブーム以降の世代だし、そんなに古い名作を見てないので、当たり前の話だけ。ということで、「まだ見たこと無い」と言う方はご参考まで。既に良く見ていて、いろいろ考えた方にはまったく無駄話なので、以下スルーして下さい。

映像を語る会第1回(2008年7月7日) − 小津安二郎 by せるげー

ポイント:

  1. 意味が無いなら動かさない
  2. 結果は画面&音であって、結果を完全に支配すること
  3. 小津安二郎もいつも同じというとそんなことはないです(そりゃ同じ物を多いのだけれど)

いずれにせよ、小津サンは、どうしてそういうスタイルなのか、何をやろうとしているのか、何をやらないようにしているのか、非常に考えさせられる。

ポイント3については、全部見ろというのも大変なので、取っ掛かりとして以下推奨。

戦前の作品:『淑女と髯(ひげ)』『生まれては見たけれど』非常線の女等々なんでもいいけれど、どれか一つ、取りあえず。

小津安二郎 名作セレクションIV [DVD] の商品写真  小津安二郎 名作セレクションIV [DVD]
小津安二郎監督作品を収めたBOX第4弾。30年から36年の間に作られた『出来ごころ』『浮草物語』『その夜の妻』『非常線の女』『東京の合唱(コーラス)』『淑女と髯』『大人の見る絵本 生まれてはみたけれど』『一人息子』の8作品を収録
販売元: 松竹

中期&後期:東京物語秋日和秋刀魚の味あたり

小津安二郎 名作セレクションI (5枚組) [DVD] の商品写真  小津安二郎 名作セレクションI (5枚組) [DVD]
小津安二郎監督の名作BOX第1弾。戦後の小津スタイルが確立される49年から56年の間に作られた『晩春』『麥秋』『お茶漬の味』『東京物語』『早春』の5作品を収録。
販売元: 松竹

小津安二郎 名作セレクションII (5枚組) [DVD] の商品写真  小津安二郎 名作セレクションII (5枚組) [DVD]
小津安二郎監督の名作BOX第2弾。最盛期から晩年にかけて作られた『東京暮色』『彼岸花』『お早よう』『秋日和』『秋刀魚の味』の5本の傑作を収録。
販売元: 松竹

*2

この程度を先ず見ると、「いろいろある、、、」「いい作品多い、、、!」ということは判るはず。もちろん買い揃える必要は無くて、レンタル屋にあるでしょう。

秋日和と『秋刀魚の味』だけだって相当変わっていて、判りやすいところを一つ言えば、前者が、ストーリーの流れがしっかりしていて、暖かみのあるユーモアを持つ最良の佳作とすると、『秋刀魚の味』はオムニバス風でもあって、脇役のちょっとしたシークエンスに痛切な思いがあったり、、、全体的には悲劇的傑作。*3

『浮草』小早川家の秋を見ると、製作会社の相違でどんなスタイルの違いが起きたか、また、音楽の役割などが判ったり。そんなこんなで上に省いた中期の作品などなど、見れば見るほど発見はあろうもの。

推薦図書は、やっぱり、これでしょう。

監督 小津安二郎  増補決定版(2003/10) の商品写真  監督 小津安二郎 増補決定版(2003/10)
著者: 蓮實 重彦 83年刊行の同名書籍に、小津生誕百年を機として新たに三章(129枚)を書き下ろした増補決定版。
出版社: 筑摩書房

今回の大失敗は、秋日和のDVDを流した途端、普通にそのまま見たくなってしまったこと。時間がない、、、しかし、出だしから良すぎる・・・部分部分でこうだというより、じっくり見た方が良い物でした、、、場所が居酒屋で学生さん団体が騒がしく音が聞こえない。。。

序でながら、小津作品のあのセリフが「棒読み過ぎて」などと思う向きには、同時代の映画いろいろ見ると、あーゆー選択肢を取ったのがわかろうというものですし、あのような画面にあう演技というのもあーなろーかな、セリフが際立つのかな、、、とかなんとかいろいろ納得するかなと。

そうそう、見方ですけれど、こんな比較も面白いです。例えば同じ料理屋のカウンター場面などで、見比べて行きます。これが晩年になるほど、小津っぽいアングルになっていくのですけれど、実際に見ている我々の感覚がどう変わるか、見比べるとすごくよく判ります。
晩年の作品の方が、よくある撮り方でなくて、物語に収斂されない。物語とは別のものとして、画面に現れた人や物を見ることができる。

小津の作品はそういうものだと思っていましたけれど、とある似た場面だけ年代の代表作で比較してみると、よく判ります。こういうのは似たような作品ばかりとった小津さんだから、探求できるテーマとは言えますね。

2016年某日注:小津と禅、なんていうと、蓮實氏なら「ありがちなオリエンタリズム」として嫌な顔をされるかも知れません。実際、大概はそんな調子の解釈だからそう斬っちゃって宜しい。ですが、もし、「意味連関に囚われずものごとを五感で素直に見ること、これが本来の禅である」と、正しく考えたならば、小津と禅という見方は、あながち的外れではないことになります。
 いつぞやNHKでやっていた小津のドキュメンタリーで、誰だったか女優さんが小津を回想して、「僕は世間の物事にまったく興味がないんだ、と小津先生は仰有ってました」、といった旨の発言をされてました。
 これは死を前にした虚無感とか、戦後の世相に興味がなかったとか、思わずに・・・まぁちょっとあっても構やしませんが、なんにせよ、その発言を本来の禅的な見方で考えれば、バカバカしくって世間のレッテル合戦についていけない、という、まぁそういうことではないでしょうか、平たく言えば。
 意味連関を切り離して・・・いや、正しくは囚われずに、目の前の個物と対峙する。端的にはストーリーの中の単なる部品としない、といった表現手段が、あの小津のアングルである云々・・・

その他:

  • 二人とも短編好きなんだよね、、、愚生は小説でも短編は苦手。記憶に残ってもせいぜい漱石の『夢十夜』。

    夢十夜 他二篇 (岩波文庫) の商品写真  夢十夜 他二篇 (岩波文庫)
    著者: 夏目 漱石
    出版社: 岩波書店

  • 二人とも村上春樹好きなんだよね、、、、私は食わず嫌いもあるけど、立ち読み数頁で挫折。

  • Az君より、ミシェル・ゴンドリー Michel GondryのMusic Clip集紹介。Human Behavior作ったのこの人なんだ。ぼくはこういうものを見馴れてないので、どこが傑出しているのかがよくわからなかった。Az君に言わせると、作り手としてどう撮るんだろう?どう合成して、編集するのか、、、等々実際の製作の作業・技術的な考えると大変面白いそうな。Az君は実際なんとかいう方の下で現場で何年か働いていて、小津映画見ていても、セットや照明がどうなんだろう・・・という話が出て来てありがたい。あと、同氏曰く、日本人なら丹下紘希がいいとのこと。

  • 宮崎駿の本を読んでいて、製作を進める中で、登場人物のディテールが深まったりするので、後戻りしていろいろ手直しするのを厭うべきではないという発言あり。帰り際に端と思いついたのだけど、製作システムが後戻りしにくいと、キャラクターが類型的になりやすい?関係あるのかないのかわからないけれど、文章に於ける文体というものは、ワープロによって、編集が幾らでもしやすい現代において、幾らか変わって来たりする?

その他もろもろの話があるけれど、今後話が深まりそうなのでカット。

そうそう、そのミシェル・ゴンドリー Michel GondryのMusic Clip集というのは

DIRECTORS LABEL ミシェル・ゴンドリー BEST SELECTION [DVD] の商品写真  DIRECTORS LABEL ミシェル・ゴンドリー BEST SELECTION [DVD]
人気の映像作家ミシェル・ゴンドリーの手掛けたビョーク、ベックなど豪華ミュージシャのPVのほかに、高い評価を得たTVコマーシャルも収録した映像作品
販売元: アスミック

これでした。PVならばYouTubeで公式映像もかなり探せると思います。なお映画も作っていて、『エターナル・サンシャイン』は面白いとのこと。当方未確認です。

エターナル・サンシャイン [Blu-ray] の商品写真  エターナル・サンシャイン [Blu-ray]
ミシェル・ゴンドリー監督が、ジム・キャリーケイト・ウィンスレット共演で贈るラブストーリー。
販売元: ギャガ・コミュニケーションズ

では〜

*1:私も中学・高校生の頃、何気なくTVで見たヴィクトル・エリセ『エル・スール』やタルコフスキー諸作品、ヴェンダースの『パリ、テキサス』など、タイトルなんて覚えていないけど「ありゃいい!」と感銘を受けていた作品が、実は名作だったんですよ〜と大学時代に諸々の本で知って、これは面白いのかも・・・と見まくった・・・というありがちなライン。一年半くらいは、一日五本といったペースで見ていて、数多く見直したりもあって「のべ数」ですが、、、旅行中もフランスでは映画館のはしご、ウィーンのシネマテックが丁度60周年で、ルノアールの『沼 Swamp Water』とか、ドライヤーの『ゲルトリュード』とか見たものです・・・ただまー、あれも単にブームだなと思うのが、小津の映画祭行けば、「それが小津だよね、わかっちゃってるよー」笑いの若者と、懐かしくて見ている笑いのポイントが正しいお年寄りは完全に二分されていたし、海外の映画館で日本人学生観光客なんて腐るほど居るのに映画見ているやつぁーいないし、あの時、パリのオデオン座で、リプリントのヒッチコック『めまい』とジョン・フォードの『捜索者』やってたのに、、、そんでもって、いかにもフランス人らしく、ヒッチコックは大量の列なのに、『捜索者』はガラガラだったり(←これは関係ないか!)、、、思い出した。東京シネマテックのジャン・ルノアールの映画祭に行ったとき、開幕ニ時間前の早朝7時に行ったのに長蛇の列だったのを見て、「ここまで努力してみる必要はないや、、、帰って寝よう」としました。そこまでやるほど重大事ではないと憑き物が落ちた格好で、以後は、熱心に時間を割いて見ていません。

*2:2016年某日注:現在Boxが安価なので引用商品差し替えました。ほんとに名作ですので、ぜひcompleteしてくださいませ。単品DVDも探せば出ていますよ。
いまデジタルリマスターのBru-Ray版がぽつぽつ出てますので、ちょっと悩みどころですね。

*3:好き!と気軽にいいたい作品は『秋日和』。Beethovenの交響曲第8番みたい?円熟した巨匠が余裕をもって作ったという感じ。