Isaac Bashevis Singer アイザック・バシェヴィス・ジンガー の言葉から − 創造的な人物の持つペシミズムは、デカダンスなのではない

Some of my cronies in the cafeteria near the Jewish Daily Forward in New York call me a pessimist and a decadent, but there is always a background of faith behind resignation. I found comfort in such pessimists and decadents as Baudelaire, Verlaine, Edgar Allan Poe, and Strindberg.(中略)

The pessimism of the creative person is not decadence but a mighty passion for the redemption of man. While the poet entertains he continues to search for eternal truths, for the essence of being. In his own fashion he tries to solve the riddle of time and change, to find an answer to suffering, to reveal love in the very abyss of cruelty and injustice.

from Nobel Prize Lecture by Isaac Bashevis Singer
http://nobelprize.org/literature/laureates/1978/singer-lecture.html

 

ニューヨークのジューイッシュ・デイリー・フォワード社の近所に食堂があって、そこに集う仲間内には、私のことをペシミストだ、デカダントだとする者も居ります。しかし、諦念の背後には常に信念がある。ペシミストないしはデカダントとされた文人には慰められたものです。ボードレールヴェルレーヌエドガー・アラン・ポーストリンドベリなどが挙げられましょう。(中略)

創造的な人物の持つペシミズムは、デカダンスなのではありません。人々の贖罪を想う強い熱意であります。詩人は、我々を楽しませながらも、不変の真実、存在の本質を探し続けております。詩人は各々のやり方で、時間と変容の謎を解こうと、苦難に対する答えを見つけようと、残虐と不正義の奥底で愛を示そうとしているのです。

I.B.Singerは、1904年ポーランド生まれのユダヤ人、イデッシュ。兄の薦めで文学の道に開かれ、二十歳前後から先ずは翻訳、次に短編を発表。ナチス台頭に危険を感じ、1935年北米に亡命。ニューヨークのYiddish系新聞ジャーナリストとして糊口をしのぎながらも、母国語であるYeddish語での文学活動を続け、1978年ノーベル文学賞受賞、1991年没。

Yiddish語は、ドイツ語をベースにスラヴ語・ヘブライ語を交え、ヘブライ文字で記載する、中・東欧ユダヤ人社会の言葉との事。Singer にとって、ヘブライ語はあくまで各種教典(聖書・タルムード・トラ・カバラ)を学ぶ為の特殊言葉であったそうです。大戦中にナチスによりYiddish社会が壊滅させられた上、戦後Yeddishの人々自身も混合言語としてのYiddish語を軽視し、ヘブライ語へと回帰した為、死に行く言語となったらしい。

下はこのアイザック・バシェヴィス・ジンガーの対話集。これもまた、読みやすいので、ご興味あれば。

Isaac Bashevis Singer: Conversations (Literary Conversations Series) の商品写真  Isaac Bashevis Singer: Conversations (Literary Conversations Series)
著者: Isaac Bashevis Singer, Grace Farrell
出版社: Univ Pr of Mississippi

Yiddishの一記録として歴史的文化的興味も尽きませんが、一般に混合言語に感心がある方、翻訳・文学実作上の諸疑問を持つ方、絶対神の存在と自由意志の問題等々のスピノザに出て来そうな議論に興味がある方、そして、どんな言葉であれ、その言語の作る世界のユニークさが大事だと感じるすべての方に、御一読お薦め致します。*1

*1:教文館がタルムードのミシュナー全訳刊行はじめたけれど、長年III巻が出ないまま滞っておりますな・・・

ミシュナ〈4別巻〉アヴォート (ユダヤ古典叢書)  の商品写真  ミシュナ〈4別巻〉アヴォート (ユダヤ古典叢書)
翻訳: 長窪 専三
出版社: 教文館